人生のエンディングを考える(その9)-民法(相続法)改正-


 みなさんこんにちは、今日は少し話題を変えて現在国会で審議中の民法(相続法)改正についてお話したいと思います。昨年以来、民法を改正する法案が国会で審議され成立しています。昨年成立した債権法の改正は大幅なものです。これは、2020年4月に施行されます。また、6月13日には、成人の年齢を18歳とする改正も可決されています。相続法については、6月19日に衆議院を通過しています。今日は、その概要をご紹介します。

1.概略

 今回の相続法改正案では、相続における配偶者の権利の拡充、遺産分割に関する見直し、遺留分制度の見直し、遺言制度の見直しの4点からなっています。配偶者の権利の拡充は、伴侶が死亡した後の配偶者の安定した生活を法的に確保することを狙いとしています。遺産分割に関する見直しは、相続における相続財産の取り扱いを変更してより実効性の相続を実現しようとしています。遺留分制度の見直しは、法的性質の見直しと相続人の権利保護の拡充が図られています。遺言制度の見直しは、遺言の方式の緩和や保管制度の創設が行われています。

2.配偶者の権利の拡充

 今回の相続法改正の最大の注目点は配偶者の権利の拡充にあります。その施策として「配偶者居住権」という新たな権利を創設することになりました。これまでは、相続が発生すると配偶者と子が2名の場合は、配偶者に1/2、子には各1/4ずつ財産が相続されました。今まで、被相続人が所有者となっていた居住用の土地建物は、配偶者と子2名の共有になることになります。そこに問題が隠れていました。遺産分割協議で、居住用の土地建物が配偶者以外の相続人の所有となった場合、遺産を承継した人が売却により所有者が変って、配偶者が退去を求められたり、賃料を要求されたりするような事例がありました。このような事態になると、配偶者の住居は不安定な状況になり、生活が安定しません。永年にわたり被相続人と生活を共にした配偶者にとっては、非常に酷な状況になります。このような状況に対する施策として所有権とは別に、配偶者の生活する権利を保障するために、居住用の建物で生活をする権利として「配偶者居住権」が創設されました。相続開始時に居住していた居住用の建物について、「配偶者居住権」を認めて配偶者の生活に支障がないようにします。「配偶者居住権」は長期的な保護と短期的な保護の両面で条文が設定され、費用の負担や損害賠償及び対抗要件などを規定しています。

3.遺産分割に関する見直し

 遺産分割の見直しでは、遺産分割のより実効性のある柔軟な遺産分割のためにつぎの施策がとられています。

(1)持戻し免除の意思表示の推定

 婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が被相続人となり、他の一方が相続人となる場合、居住用の土地建物を遺贈又は贈与した場合は、民法903条3項にある持戻し免除の意思表示があったと推定する。(持戻しとは、生前に贈与した財産がある場合、その財産を相続財産に加えることを意味します。持戻し免除とは、生前に贈与した財産を、相続財産に加えないことを意味します。)遺贈又は贈与した居住用の土地建物が、相続財産に加わらないことで、配偶者の相続分がより手厚くなることになります。

(2)仮払い制度

 相続が開始されると、被相続人名義の預金口座は凍結され引出し・預入ができなくなります。そうすると、相続人の生活や被相続人名義の債務の返済に支障が生じることがあります。これに対する施策として、一定の条件の下で預貯金の引出を認め、その要件を明確にしました。

 ① 家庭裁判所は、遺産分割の審判又は調停の申立てあった場合、債務の弁済や
   相続人の生活費支弁等のため必要があると認める時は、申立により特定の預
   貯金についてその一部又は全部の引出しを認める。
 ② 家庭裁判所の判断を経ない方法として、相続開始時の預貯金残高の1/3に相
   続人の法定相続の割合を乗じた額(法務省令で限度額を定める。)を限度に引出
   を認める。

 これらの権利行使は、(3)で説明する一部分割により取得したものとして扱われます。相続財産の不当な散逸を防止する施策が法務省令などで講じられると思われます。

(3)一部分割

 被相続人が遺言で禁じた場合を除いて、相続人はいつでも、協議により遺産の全部又は一部を分割することができるようになります。協議が整わないとき、または協議ができないときは、家庭裁判所に分割を請求できるようになります。これまでは、一部を分割する制度はありませんでしたが、改正により一部の分割も可能になります。

(4)遺産分割前に遺産に属する財産を処分した場合の遺産の範囲

 これは、いままで規律が設けられていませんでしたが、今回の改正案でその規律が設けられます。

 ① 相続人全員の同意で処分された財産を、遺産分割に遺産として存在するものと
   みなすことができる。
 ② ①に属する財産を処分した場合は、処分した相続人には①の同意を得ることを
   要しない。

4.遺言制度の見直し

(1)自筆証書遺言の方式の緩和

 今回の改正案のもう一つの注目点がここです。これまでは、自筆証書遺言の場合は、すべて自筆でなければ、効力がありませんでした。これは、自筆証書遺言をする人にとって負担の大きいものでした。今回の改正では、財産の目録について自筆することを要しないとの規定が入ります。財産目録をワープロで作成したりすることができるようになります。ただ、本人の意思を担保するため、各頁に署名と押印を行うこととされます。それでも、負担の軽減は大きいと言えます。

(2)自筆証書遺言の保管制度の創設

 自筆証書遺言の保管は、遺言者の意思に委ねられていますが、今回の改正案では、遺言者が希望すれば法務局で自筆証書遺言書を保管する制度が創設されます。

そのほかに、遺贈の担保責任の明確化と遺言執行者の権限の明確化が、改正案に盛り込まれています。

5.遺留分制度の見直し

 遺留分制度の法的性質を見直しが主な改正ですが、ほかにつぎの改正があります。

 ① 相続人に対する贈与は相続開始前10年間にされたものを、遺留分の
   算定対象にします。
 ② 負担付贈与では負担部分の価額を財産から控除した額を遺留分の
   算定対象の財産の価額にします。
 ③ 不相当な対価による有償行為は、当事者双方が遺留分権者を害する
   ことを知ってしたときは、不相当な対価を負担の額とする負担付の
   贈与とする。

 そのほかに債務の取り扱いについての見直しも行われています。

3.結び

 今回の民法改正案は、参議院で審議中です。この改正案が成立すればより具体的な運用について、様々角度からより詳しい解説がなされると思います。今回は、改正案の紹介を目的に整理してみました。雑駁な点はご容赦いただきたく思います。

 本日も最後までご覧いただきありがとうございました。

(参考文献)
民法Ⅳ補訂版 親族・相続 内田貴 2004年 東京大学出版会
民法(相続関係)等の改正に関する要綱案(案) 2018年 法制審議会

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です